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岡山地方裁判所 平成3年(ワ)391号 判決 1996年12月11日

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載一の建物を明け渡せ。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載二の建物を収去し同目録記載三の土地を明け渡せ。

三  被告は、原告に対し、金三一一一万三三八三円を支払え。

四  被告は、原告に対し、平成六年一〇月一日から別紙物件目録記載一の建物の明渡、同目録記載二の建物の収去及び同目録記載三の土地の明渡済まで、一か月五六万七〇八〇円の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、被告の負担とする。

七  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一と同じ。

2  主文二と同じ。

3  被告は、原告に対し、四一四九万三一七六円を支払え。

4  被告は、原告に対し、平成六年一〇月一日から別紙物件目録記載一の建物(以下「本件建物」という。)の明渡、同目録記載二の建物(以下「本件車庫」という。)の収去及び同目録記載三の土地(以下「本件土地」という。)の明渡済まで一か月一〇六万七〇八〇円の割合による金員を支払え。

5  主文六と同じ。

6  主文七と同じ。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、工業用コルク製品、工業用ゴム製品、合成樹脂製品、オイルシール等の製造販売を業とする株式会社である。

被告は、原告の従業員によって構成される法人格なき労働組合である。

2  本件土地建物は、原告の所有であるが、原告は、被告に対し、昭和四九年三月ころ、本件建物を被告の組合事務所として、昭和六一年二月ころ、本件土地の一部を被告の車庫用地として、いずれも期間を定めず無償で貸与した(以下「本件建物貸借契約」、「本件土地貸借契約」といい、併せて「本件貸借契約」という。)。

3  原告は、平成元年六月二七日、被告に対し、本件貸借契約の解除の意思表示をし、右意思表示はそのころ被告に到達した(以下「本件解除」という。)。

4  本件解除には次のとおり正当の事由がある。

(一)(1) 原告は、肩書住所地に存在する第一工場において、主としてコルク製品を製造しており、昭和六一年四月以降、取引先であるサントリー株式会社(以下「サントリー社」という。)との間の共同研究開発基本契約に基づき、新商品である圧搾コルク栓の開発及び製造を第一工場にて行ってきたが、平成元年一月ころ、サントリー社から、圧搾コルク栓を利用した洋酒用の瓶の栓等の大量発注の意向が示されたため、原告は、圧搾コルク栓と他の部品とを組み立てる工場を新たに建設することとした。

(2) 新工場建設にあたっては、①生産効率の面から必要な製造工程をワンフロアで一貫生産することが望ましく、かつ、サントリー社の発注量に対応しうる設備を備え付けるためには、建屋面積として約九四〇M2が必要である、②圧搾コルク栓自体の製造は第一工場内で行い、それを新工場に運んで他の部品と組立てるため、新工場は圧搾コルク製造場所と近接するのが望ましい、③新たに工場用地を購入するとなると莫大な投資が必要となるので、現在原告が所有している土地を利用したい、その場合、借地や貸地にかからない土地が望ましい、かつ、経費節減のためできるだけ既存建物を利用したい、④洋酒用の瓶の栓という製品の性質上、食品衛生及び他の臭気が付着しない等の配慮が必要である、⑤機械の稼働に伴い騒音が生じるので民家に隣接する場所はできるだけ避けたい、⑥大型トラックの出入りが容易である等の条件を充たす必要があり、以上を総合的に考慮すると、第一工場の南に隣接する、現在、第八倉庫、本件建物及び本件車庫のある区画(以下「本件予定地」という。)に新工場を建設するのが最も合理的であり、そのためには、本件建物及び本件車庫を収去して更地にする必要がある。

(二)(1) 原告は、本件解除に際し、本件建物に代わる新たな組合事務所の提供に関して、五回にわたり被告と協議をし、次の案を提示した。

すなわち、原告は、平成元年六月二七日、本件解除の通知とともに、被告に対し、代替事務所用として、第二工場に隣接する岡山市江並字一二割<番地略>所在の社宅南側駐車場の一角に床面積36.56M2の建物を新築するとの案(第一次案)を提示したが、被告から右面積では狭いとの意見が出たため、場所については右同所、床面積を46.37M2とするとの案(第二次案)を示した。

ところが、被告は、場所につき第一、第二工場から均等距離にあるほうがよい、面積についても狭すぎるとして、第二次案にも応じなかったので、原告は、第三次案として、被告の右要望を入れて、第一工場と第二工場の中間点である男子寮北の社宅二棟のうちの東側一棟(岡山市江並字一一割<番地略>所在、床面積65.2M2。以下「本件代替事務所」という。)を改修工事したうえで貸与するとの案を提案するとともに、組合集会等のために場所が必要な場合は、原告所有の施設の利用を認める(ただし、許可制とする。)との意向を示した。

(2) 被告の組合員数は、本件建物貸借契約を締結した昭和四九年当時は、約五五〇名であったが、昭和六三年六月、内山工業新労働組合(以下「新労組」という。)、同年七月、内山コルク労働組合(以下「コルク労組」という。)、同年一一月、内山工業大阪工場労働組合(以下「大阪工場労組」という。後に、大阪工場が兵庫工場に移転したため、兵庫工場労働組合〔以下「兵庫工場労組」という。〕となった。)が結成されたため、本件解除の時点では一三七名に減少していた。

(3) 各組合の組合員数に照らせば、現在被告が組合事務所として利用している本件建物の面積は、他の組合の組合事務所のそれに比して不相当に広く、本件代替事務所の面積で十分である。

(4) 原告は、平成元年八月一七日、本件代替事務所の改修工事を完了し、同月一八日、被告の中央執行委員長向井進に鍵を渡しており、被告は、いつでも本件代替事務所を組合事務所として使用することができる。

駐車場についても、本件代替事務所から約五〇メートル南の岡山市江並字一一割<番地略>に、普通車四、五台が入る駐車場(124.00M2)を無償で貸与すべく確保しているから、同所に被告所有の車両を駐車させることも十分できる。

5  被告は、本件解除により、本件土地建物の明渡義務を負っているところ、これを履行せず、不法に占拠している。そのため、原告は、次の暫定措置及びそれに伴う支出を余儀なくされており、これは被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係のある損害である。

(一) 原告は、第一工場内の修養館と呼ばれている建物を機械設置場所としたが、そのために各種の改造工事を行った。また、平成三年四月から、寿倉庫株式会社から倉庫(以下「旧寿倉庫」という。)を借りて製品置場とした。その費用は、次のとおり。

屋外電気工事費用

一四七万二二〇〇円

屋内配線工事費用一六万二〇〇〇円

修養館等改造費用

二二〇万五五九三円

受電設備レンタル料(月額六万円。平成元年一一月から平成六年九月まで) 三五四万円

旧寿倉庫賃借料(月額四九万円。平成三年四月から平成五年九月まで)

一四七〇万円

(合計二二〇七万九七九三円)

(二) サントリー社からの機械の増設要求により、ガラス栓コルク組立機一、二台の増設が必要となったため、平成五年一〇月以降は、寿倉庫株式会社から新たに借り換えた倉庫(以下「新寿倉庫」という。)で生産を行っており、新工場完成まで、この体制を継続せざるをえない。新寿倉庫の賃借料は、月額一〇六万七〇八〇円であり、平成五年一〇月から平成六年九月までに既に一二八〇万四九六〇円を支払った。

(三) 新倉庫の借り換えに伴う設備の移設のため、動力配線工事及び諸施設の取付工事を行った。その費用は次のとおりである。

動力電源配線工事費用

二四一万三三〇〇円

高圧受電工事費用九四万五〇〇〇円

屋内配線工事費用

一五五万八〇〇四円

配管工事費用 一六万〇一九四円

移設に伴う諸費用九六万八八八五円

受電設備リース料(月額四万六九二〇円。平成五年一〇月から平成六年九月分) 五六万三〇四〇円

(合計六六〇万八四二三円)

よって、原告は、被告に対し、所有権に基づく本件建物の明渡、本件車庫の収去及び本件土地明渡、並びに民法七〇九条又は四一五条に基づき、金四一四九万三一七六円及び平成六年一〇月一日から右明渡済まで月額一〇六万七〇八〇円の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は認める。

4  同4(一)(1)は認める。(2)のうち①ないし⑥の条件は知らない。その余は否認する。(二)(1)(2)は認める。(3)は否認する。(4)のうち原告が本件代替事務所の改修工事を行ったことは認めるが、鍵の受領は否認する。

会社が労働組合に対し組合事務所の無償貸与契約を解除してその明渡を求めるには、①明渡を求める必要性と相当性があり、かつこれが合理的であること及び②必要最小限度の代替組合事務所を提供することの二つの要件を充たす必要がある。そして、②の「必要最小限度」の内容は使用者のまったくの裁量によるものではなく、労働協約・労使慣行等労使のそれまでの労使秩序の形成・維持の経過に照らして判断されるべきものであるところ、本件解除は、次のとおり、合理的理由なしになされたものであって、右要件を充たさず、かつ、被告に対する不当労働行為であり、権利の濫用である。

本件予定地は、西を旭川の堤防、北を市道、東を市道と用水路、南を民家で囲まれた土地であり、その敷地面積は1596.76M2、建築面積は941.57M2であるところ、原告は、新工場建設のために必要な建屋面積を九四〇M2としたうえで、本件予定地がこれを満たすとして建設計画を立案しているが、サントリー社から当初設置要請のあった数の機械を設置して円滑に作業を行うためには、九四〇M2では不十分であり、まして、その後の増設要請には到底対応できないうえ、右のような本件予定地の形状、面積、及び建築基準法上の建ぺい率に照らし、これ以上敷地も建屋も広げることはできないから、本件予定地が適合するとの判断は明らかに不合理である。また、右のとおり、本件予定地は旭川堤防の市道の下に位置しており、車両の往来による埃、ゴミの問題があり、かつ民家に隣接しているから、騒音対策上も適当でなく、大型トラックやフォークリフトの往来によって、本件予定地の東側の市道がふさがれ、近隣住民の通行のじゃまになるから、相当でない。更に、本件建物及び本件車庫があること自体、最大の障害要因のはずである。

本件建物は、当初は、被告が自ら費用を出して建築する予定であったのを、原告の申し入れにより原告側で建築することとなったもので、専ら組合事務所として使用することを目的として建築された建物であるから、既存の会社所有の施設を組合事務所として貸借する通常の便宜供与とは事情が異なり、被告がこれまで長年にわたり、本件建物の無償貸与を受け、本件建物で泊まり込みの学習会、組合集会を開催する等して、本件建物を被告の組合活動の本拠として利用してきたことに照らせば、原告被告間では、貸与する組合事務所の面積に関して、本件建物の面積程度のものとするとの合意があるというべきである。

これに対し、原告の提示した代替事務所案は、本件建物の面積と比較して著しく狭く、被告が保有している備品等の収納すら困難なものであって、組合事務所として必要な広さを備えていないから、到底受け入れ難く、代替事務所案として不相当である。特に、第三次案は、建物の老朽化がひどく損壊の危険があり、安全性に不安があるうえ、被告組合員にとって屈辱的である。集会場所の使用についても、許可制では、被告組合員及び上部団体以外の第三者の参加が制限されることは確実であり、組合活動が現在より大幅に制約される。

被告は、原告からの本件土地建物明渡請求に対し、代替事務所の条件が整うならば移転に応じるとして柔軟な姿勢で交渉に臨んだが、原告は、平成元年七月四日から同月二五日までの間に五回の協議会を行っただけで一方的に交渉を打ち切り、本件土地建物の明渡及び第三次案の代替事務所への移転を要求するのみであり、以後は被告からの度重なる話し合いの要請にも応じようとせず、結局、解決に時間のかかる訴訟提起という手段に出たうえ、新工場建設までの暫定措置として、新旧寿倉庫の借り入れや改造工事の実施等のコストのかかる方法を選択しているのであって、真に新工場建設を企図しているとは考え難い。

原告は、昭和六二年及び昭和六三年の春闘において被告がストライキを実施したことに対し、同年六月以降、被告の組合員に対する脱退勧奨、配転命令、懲戒処分、手当の不払等の不当労働行為を重ねてきた。

原告は被告を嫌悪し、その活動が営業政策及び対外的な信用維持にとって不都合と考えており、右代替事務所に固執するのは、被告の組合事務所を外来者の目に付く場所にある本件建物から目に付きにくい代替事務所の位置に移転させようとの意図があるからにほかならない。

以上のとおり、本件予定地を新工場建設予定地とするには、複数の障害要因があり、なかでも本件建物及び本件車庫があること自体、最大の障害要因のはずであるが、原告はこれを一切考慮しておらず、また、その交渉態度にも早期解決を図ろうとする姿勢がまったくないうえ、暫定措置については、経費節減の主張に反してコストのかかる方法を選択しているのであって、かかる原告の態度及び昭和六三年六月以降の原告の被告に対する一連の不当労働行為に照らせば、原告の真意は、新工場建設ではなく、これに名を借りた被告の組合事務所の縮小移転、ひいては被告の弱体化にあることが明らかである。

したがって、本件土地建物の明渡請求は、右一連の不当労働行為の一貫であって、労働組合法七条一項、三項の不当労働行為であり、権利の濫用である。

5  同5のうち、原告が修養館に機械を設置していること、旧寿倉庫を賃借したこと、その後、新寿倉庫に借り換えてそこで作業を行っていることは認めるが、工事内容及び支出金額は知らない。被告が本件土地建物の明渡義務を負っていること、不法占拠であること及び被告主張の損害との間に相当因果関係があることは、いずれも否認する。

第三  証拠

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1ないし3について

争いがない。

二  請求原因4について

1  甲一ないし三八三(三〇一ないし三三五、三三七、三三九、三四一については枝番を含む。)、乙一ないし九八(二〇、二一、二六、二八、三一、五一については枝番を含む。)、証人小川晃一、同井上剛、同片山公三及び同太田一志の各証言、被告代表者向井進本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、工業用コルク製品、工業用ゴム製品、合成樹脂製品、オイルシール等の製造販売を業とする株式会社であり、肩書住所地に岡山第一工場、岡山第二工場を有しているほか、岡山県内に邑久工場、牛窓工場(平成四年新設)、御津工場(平成五年新設)、赤坂研究所(平成五年新設)、兵庫県に兵庫工場(平成四年に従前の大阪工場を移設)、神奈川県に茅ヶ崎工場、静岡県に御前崎工場(平成七年新設)を置き、東京、名古屋等五か所に支店を有している。従業員数はパート、契約社員を含めて約七二〇名である。

原告は、当初コルク瓶栓の製造所として設立され、長年、コルク製品の製造を中心として発展してきたが、次第に事業規模を拡大し、現在では、コルク製品のほか、合成ゴム製品、合成樹脂製品及びガスケットシール等の自動車関連部品の製造、販売を行っており、第一工場においてコルクジスク、天然コルク栓、圧搾コルク栓等のコルク製品と工業用プラスチック製品等、第二工場と邑久、御津、牛窓の各工場でベアリングシール等のゴム製品、茅ヶ崎工場でビール等の瓶の王冠等、兵庫工場で建材等の製造加工を行っている。

被告は、原告の従業員によって構成される労働組合で、大会を決議機関とし、中央執行委員会がその執行並びに原告との団体交渉及び本社協議にあたり、中央執行委員長を代表とする権利能力なき社団である。昭和二一年に内山コルク工業所三蟠工場労働組合として結成され、昭和三七年内山工業労働組合と名称変更し、昭和四七年に合成化学産業労働組合連合(合化労連)に加盟したが、昭和六二年、合化労連の分裂に伴って脱退し、新たに結成された全国化学労働組合協議会(全国化学)に参加した。組合員数は、本件申入れのあった平成元年六月時点で一三七名、平成七年三月時点で一一五名である。

原告の労働組合としては、被告のほかに、新労組(昭和六三年六月結成、平成七年三月時点の組合員数一七二名。)、コルク労組(昭和六三年七月結成、平成七年三月時点の組合員数四五名。)、兵庫工場労組(昭和六三年一一月、大阪工場労組として結成、平成七年三月時点の組合員数一五名。)がある。

(二)  原告と被告との間には、昭和二七年ころに作成され、その後昭和五九年まで改訂を重ねてきた「労働協約」と題する文書があり、その一〇条には、原告は被告から申し出があった場合には組合事務所として会社施設を利用する便宜を与える旨規定されていた。右文書には、原告及び被告の各代表者の署名又は記名押印がないものの、昭和六三年九月ころまでは、労使双方とも右文書を有効な労働協約として扱ってきており、被告は、右条項に基づき、長年にわたって原告から組合事務所の貸与を受けてきた。なお、前記文書に労使双方の署名又は記名押印がないことに気づいた原告は、昭和六三年一〇月、被告に対し、右文書には労働協約としての効力はない旨通知し、その後、原告被告間で新たな労働協約の締結について協議が行われたが、合意に至らず、以後現在まで、原告被告間に労働協約は存在していない。

被告の組合事務所は、当初は第一工場内の現電気倉庫(約三坪)、昭和四二年から昭和四八年までは第二工場内の木造平屋建の建物(約一五坪)であったが、昭和四八年八月、原告から右建物を原告側で使用する必要が生じたとして組合事務所の移転を求められたため、労使協議の結果、新たに本件建物を建設することとなった。

本件建物の建設に際し、被告は当初、自らの負担で建てることを予定して金融機関からの借入れの手配をしていたが、原告から、原告の側で会議や研修等に利用できるよう、所有名義を原告としたうえで被告に無償貸与することにしてほしいとして、費用負担の申し出があったため、結局、建設費総額七八〇万円のうち、四〇〇万円は原告が準備し、残り三八〇万円については、被告が金融機関から借りた三八〇万円を原告に貸与し、原告は、被告と金融機関との間の契約内容どおりの元利金を毎月被告に支払うことで合意した。

本件建物は、昭和四九年三月に完成し(一階部分36.9坪には、会議・集会室、印刷室、台所、トイレがあり、二階部分20.5坪は二〇畳の宿泊室兼会議室と事務室がある。)、以後は、一、二回原告が会議等の際に一階部分を利用した以外は、もっぱら被告の組合事務所として利用されてきた。

また、被告は、昭和六一年ころ、原告に対し、本件建物付近に車庫を建設したい旨申し入れたところ、本件土地上に建ててよいとの承諾を得たことから、約一〇〇万円の建設費用を自ら負担して、本件土地上に本件車庫を建設した。本件車庫については建築確認申請は行われておらず、未登記である。本件土地の使用料は一切支払われていない。

更に、被告は、本件建物以外に、邑久工場内にプレハブ造平屋建13.2M2、茅ヶ崎工場内に元男子寮一室25.66M2の各組合事務所の貸与を受けている。

なお、本件解除当時、他の労働組合は、新労組が、岡山市江並<番地略>にモルタル平屋建の元社宅40.44M2、邑久工場内にプレハブ造平屋建32.96M2、茅ヶ崎工場内に元男子寮一室25.66M2、コルク労組が、第一工場内に木造トタン葺平屋建26.44M2、大阪工場労組が、大阪工場内に鉄筋コンクリート造の元男子寮一室12.6M2の各組合事務所の貸与を受けていた。

(三)  原告の主力製品は、かつては、第一工場で製造されていたビールの王冠用のコルクジスクであったが、昭和四七年ころから、各ビール会社がポリエチレン等の石油化学製品を用いた王冠に切り換えたため、第一工場製品の売上高におけるコルクジスクの割合は減少した。

そこで、原告は、昭和五八年から、コルクジスクに代わる第一工場の主力製品とすべく新商品の圧搾コルクの開発を進め、昭和五九年、サンプルを約四〇社に持ち込んで売り込みを行ったところ、サントリー社から、ブランデー、ウイスキー用のガラスコルク栓に用いたい旨の話が出され、昭和六一年四月、サントリー社との間で共同開発基本契約を締結した。その後、サントリー社の要望に応じて改良を加えた結果、昭和六二年には量産が始まり、昭和六二年度で一億三〇〇〇万円の売上を計上した。以後、圧搾コルク栓の売上高は順調に伸び、昭和六三年度には年間二億四八〇〇万円に達した。

現在、原告がサントリー社に販売している圧搾コルク栓は、大別して、シャフトタイプのガラスコルク栓、接着タイプのガラスコルク栓、接着タイプのプラスチックコルク栓の三種である。シャフトタイプとは、ガラス栓と圧搾コルク栓を二個のワッシャーシール(プラスチック製の部品)で固定したものであり、接着タイプは、ガラス栓又は樹脂笠(プラスチックキャップ)と圧搾コルク栓を接着剤で接着させたものである。

原告では、当初は、もっぱらシャフトタイプ用の圧搾コルク栓のみを製造販売していたが、昭和六三年六月ころから、サントリー社の要請により接着タイプの開発を進め、同年一二月ころ、商品化に成功し、同社からの受注を得た。また、従来は、原告では圧搾コルク栓の製造のみを行い、ガラス栓との組立作業はガラス栓製造会社において行っていたが、平成元年一月、サントリー社から、圧搾コルク栓の製造からガラス栓との組立まで一貫して原告で行ってほしい、同年九月ないし一二月ころには月間二〇〇万個を発注する見込みであるため、それまでに第一工場にガラス栓コルク組立機三台を設置してもらいたい旨の要請があり、更に、同年二月には、接着タイプのプラスチックコルク栓についても原告に発注する、その場合、樹脂笠の成型も原告において行ってもらいたい、将来の月間発注量の見通しとしては、平成二年初めころで、ウイスキー用ガラスコルク栓についてシャフトタイプ五〇万個、同接着タイプ二〇〇万個、ブランデー用シャフトタイプ一二〇万個、プラスチックコルク栓一二〇万個を予定している旨の意向が示された。

サントリー社から発注の意向が示された製品の製造に必要な工程は、概略次のとおりである。

① 圧搾コルク栓の製造

圧搾コルク栓は、精粒、スチーム洗浄、成型、加工の各工程を経て製造されるが、右工程は、従来から第一工場内の建物で行われている(その位置については、別紙図面二参照)。

② ワッシャーシール及び樹脂笠の製造

これらのプラスチック製品は、原告において、インジェクションマシンという機械を用いて製造する。

③ 組立又は接着

シャフトタイプのガラスコルク栓は、圧搾コルク栓、ガラス栓、ワッシャーシールを組立てて完成品となる。接着タイプのガラスコルク栓及びプラスチックコルク栓は、ガラス栓又は樹脂笠と圧搾コルク栓とを接着剤で接着させて完成品となる。なお、ガラス栓は他社で製造したものを用いる。

④ 検査、包装及び出荷

以上の工程を経て完成した製品は、検査、包装を経て、大型トラックに搭載され出荷される。

(四)  原告は、前記のサントリー社の要請について検討した結果、受注拡大の機会であり、ぜひとも右要請に応えるべきであるが、そのためには、次の設備を整える必要があると判断した。すなわち、ガラス栓コルク組立機一台当たりの月間生産量は約四〇万個であるから、稼働率(約八〇パーセント)を考慮すると、月間二〇〇万個を生産するためには六台が必要であり、そのうちの三台について第一工場への設置要請があったもの、プラスチック栓コルク組立機は、一台当たりの月間生産量が五〇万個であるから、稼働率を考慮すると、月間一二〇万個を生産するためには三台が必要となる、インジェクションマシンについても、サントリー社の製品用に三台が必要であり、他に、現在外注しているサントリー社以外の洋酒メーカーの製品用及び試作開発用に必要な台数を考慮すると、合計六台のインジェクションマシンの設置が望ましい。

そして、原告は、以上の機械類を設置して稼働させるには、第一工場内の既存施設では対応できないため、新たに圧搾コルク栓とガラス栓及び樹脂笠とを組立てるための工場を建設することとし、右建設に際しては、前示の受注予定量、製造工程、製品の特性及び経費等の観点から、次の条件を満たす必要があると判断した。

① 作業工程に則した設備のレイアウトの容易性及び管理の容易性(責任者による作業状況の把握が容易である。また、後記のとおり、他の臭気が付着しないよう配慮する必要があり、そのためには工場内の吸排気状態の管理が必要であるが、プラスチック栓とガラス栓とを同一の建屋内で組立てるのが管理しやすい。)から、必要な製造工程をワンフロアで一貫生産することが望ましい。また、インジェクションマシン一台の重量が約五トン、ガラス栓コルク組立機は約二トン、プラスチック栓コルク組立機は約1.5トンと一台あたり相当の重量があり、二階建てとすることは困難である。

そして、ガラス栓コルク組立機一台当たりの設置に必要な面積は20.3坪、プラスチック栓コルク組立機のそれは14.4坪、インジェクションマシン二台分のそれは26.3坪であるから、ガラス栓コルク組立機三台、プラスチック栓コルク組立機三台、インジェクションマシン六台を設置するのに必要な面積は、182.1坪(600.93M2)であって、部品置場、製品置場、機械のメンテナンスルーム及びトイレ等のスペースを考慮すると、右設備を備え付けて、円滑に作業を行うためには、建屋面積として約九四〇M2が必要である。

② 圧搾コルク栓自体の製造は第一工場内で行い、それを新工場に運んで他の部品と組立てるため、新工場は圧搾コルク製造場所と近接するのが望ましい。

③ 新たに工場用用地を購入するとなると莫大な投資が必要となるので、現在原告が所有している土地を利用したい。その際、借地や貸地にかからない土地が望ましい。また、経費節減のためできるだけ既存建物を利用したい。

④ 洋酒用の瓶の栓という製品の性質上、食品衛生面での十分な配慮が必要であり、埃やゴミの多い場所は避けたい。また、製品に原料臭や他の臭気が付着すると商品価値がなくなるため、近くに異臭を発するものが存在しない場所でなければならない。

⑤ インジェクションマシンについては二四時間体制で稼働させる予定であり深夜にも騒音が生じるので、民家に隣接する場所はできるだけ避けたい。

⑥ ガラス栓は他社で製造したものが大型トラックで第一工場に運ばれてくるし、完成品についても大型トラックに積んで出荷するのであり、頻繁に大型トラックが出入りすることになるから、それが容易な場所でなければならない。

そして、原告は、まず、右条件のうち②に合致するものとして、第一工場内(A案)、本件予定地(B案)、第一工場の南側の現在の自転車置場の位置(C案。別紙図面三参照。)、江並加工所前(D案。同図面参照。)を候補地に選び、個別にその余の条件を充たすか検討したところ、A案については、第一工場内には既存の建物が多く現状のままでは必要な面積が確保できず、敢えてここに建てるとすると、既存の建物を複数撤去する必要があるが、中には容易に撤去又は移設できない設備があり、膨大な費用がかかること、第一工場内の北側部分でコルクラバーを製造しており、ゴム臭が強いため、これが製品に付着するおそれがあること、通路が狭く大型トラックの出入りが困難であることから妥当でなく、C案については、既存の自転車小屋、木工所、用品倉庫、トラックスケール、車庫を撤去しなければならないうえ、工場の形状がL字型になるため、設備、配線、配管の配置の効率が悪く、コンベアーでの部品又は製品の移送が困難となり、好ましくないこと、民家二件に隣接することの難点があり、D案については、必要面積を充たすためには現在江並加工所に賃貸している土地及び八田善之からの借地を使用しなければ必要な面積を充たさないため、貸与地の返還を受け、八田から工場建設についての承諾を得る必要があること、隣接する岡山生コンクリート株式会社の工場からの砂埃の影響が懸念されることから、適当でないのに対し、B案については、本件建物及び本件車庫が存在しており、これを撤去する必要があるものの、八号倉庫を利用すれば、必要面積を充たすうえ既存建物の有効利用によって新工場建設費用が節約できること、埃や異臭についても特に問題ないこと、民家は北側に一件あるが、これに対する騒音対策は、インジェクションマシンを八号倉庫に設置することで対応できること、公道に隣接しており大型トラックの出入りが容易であることなど、他の三つに比べて条件が充たされており、総合的に考慮すれば本件予定地に新工場を建設するのが最適であるとの結論に達し、新工場内の設備のレイアウト及び圧搾コルク製造から出荷までの工程について、別紙図面四及び同二の「建設後の工程図」のとおりの計画を立てた。

なお、第一工場長の小川からは、原告に対し、サントリー社の要請に応じた生産体制を整えるためには平成元年一〇月ころまでに新工場の建設に着工してもらいたい旨の意見書が出されていた。

(五)  そこで原告は、平成元年六月二七日、被告に対し、本件解除を通知し、本件建物の明渡並びに本件車庫の収去及び本件土地の明渡を求めるとともに、代替事務所案として、第二工場に隣接する岡山市江並字一二割<番地略>所在の社宅南側駐車場の一角に床面積36.56M2の建物を新築するとの案(第一次案。その位置関係については、別紙図面五参照。)を提示した。

これに対し、被告は、同月二八日、原告に対し、協議会の開催を申し入れ、平成元年七月四日から同月二五日までの間に、五回にわたり労使双方による協議会が開催された。その過程において、原告は被告に対し、前示のとおりの新工場建設の必要性及び建設場所として本件予定地が最適であることを説明して明渡しを求め、被告は、代替事務所についての条件が充たされれば明渡しに応じる意志はあるとして、原告の明渡要求に一定の理解を示したものの、代替事務所についての第一次案には応じられないとしたため、原告は、場所については右同所、広さを46.37M2とするとの第二次案を、次いで、場所についての被告の要望を考慮して本件代替事務所を改修工事したうえで貸与するとの第三次案及び組合集会等のために場所が必要な場合は、修養館の利用を認める(ただし、許可制とする。)、本件代替事務所に収納できない備品については原告側で保管場所を確保する、駐車場については本件代替事務所から約五〇メートル南の岡山市江並字一一割<番地略>に、普通車四、五台が入る駐車場(124.00M2)を無償で貸与するとの意向を示した(その位置関係については、別紙図面五参照。)が、被告は、第二次案については狭すぎること、第一工場から遠いこと、現状と比べ環境が悪いことを理由として拒否し、第三次案についても狭すぎる、現状と比べ環境が悪い等の理由から拒否した。

そこで、原告は、同月二五日の第五回協議会をもって協議会の開催を打ち切り、同月二七日には第三次案の建物の改修工事に着手し(同年八月一七日工事完了。)、同年八月一一日、原告に対し、同年八月末までに第三次案の代替事務所に移転を完了すること及び同年九月一日以降は移転が完了したものとみなし本件建物の解体工事に着工することを通知した。

このような原告の対応について、被告は、文書で抗議し、数度にわたり団体交渉の開催を申し入れたが、原告はこれをすべて拒否し、以後は、相互に相手方の対応を非難する文書の応酬が繰り返された。

(六)  一方、原告は、本件予定地における新工場建設について、平成元年九月一二日、建築確認申請を行ったが、右確認の通知がなかなか発せられず(通知がなされたのは平成二年七月二七日。)、また、被告がいっこうに本件土地建物の明渡しに応じようとせず、平成元年九月二七日には岡山県地方労働委員会に対し組合事務所の明渡請求が不当労働行為にあたるとして救済命令の申立を行った(ただし、平成二年四月二一日取下。)ため、このまま放置していたのではサントリー社からの発注に対応できないと判断し、平成元年一〇月、暫定措置として、従来食堂兼集会所として使用していた修養館にガラス栓コルク組立機二台を、旧ハードガスケット材料置場に一台を各設置して製造を開始することとして、配線及び受電設備の設置等の改修工事を実施し、また、同年九月から改修を進めていた八号倉庫にインジェクションマシン二台を設置し、平成元年一二月から、接着タイプのガラスコルク栓の本格的な量産を開始した。また同年五月からは、プラスチックコルク栓の量産が開始し(プラスチックコルク組立機は、当初、修養館に一台、旧ハードガスケット材料置場に二台設置していたが、生産効率が悪いため、平成三年四月、インジェクションマシンのある旧八号倉庫に移設された。)、品種増及び中元商品用の生産量増加により、完成品の保管場所がそれまでの社内の保管場所では手狭となったため、株式会社岡山日山倉庫から貸倉庫を借りてここに保管することとした。また、そのころ、サントリー社からガラス栓コルク組立機一台を増設するよう要請があったが、設置場所が確保できずに、同年七月、右要請を断った。

同年九月、納品した製品がサントリー社における検査で異臭が付着しているとの理由で不合格となり、結局、廃棄処分となるという事態が発生した。原告及びサントリー社の双方で原因究明に努めた結果、平成三年三月、暫定的な製品保管場所としていた第一工場内の仮設のシートハウス、旧ハードガスケット材料置場、岡山日山倉庫が、建物の古さ、換気設備の不備等、製品の保管場所として必要な環境を備えていなかったことによるものであることが判明した。そこで、原告は、同年四月以降は、第一工場から約二KM離れた旧寿倉庫(一四〇坪)を借りてここに製品を保管することとした。

また、同年三月、ガラス栓コルク組立機一台の増設要求があり、原告は、再度の辞退は営業上得策でないと判断して受入れを決定し、旧ハードガスケット材料置場への設置を予定したが、サントリー社から設置場所として不適切との指摘があったため、設置に至らなかった。

そして、平成五年三月、サントリー社から再度、ガラス栓コルク組立機一、二台の増設要求があった。原告は、従前の度重なる増設要求に対応できなかったことに対する反省から、今回は何としても受け入れるとの方針を決め、被告に対し、改めて本件土地建物の明渡しを求めたが、被告はこれに応じず、また、旧寿倉庫には二台をまとめて置くほどの空間が確保できず、別々に置くとなれば、ガラス栓コルク組立機六台を分散して設置することとなり、生産効率が極めて悪いため、新寿倉庫(二九六坪)を借り換えて、そこにガラス栓コルク組立機二台、プラスチック栓コルク組立機三台を移設して稼働させ、その余のスペースは製品置場とすることとした。現在の設備の配置及び製造工程は、別紙図面二の「現在の工程図」のとおりである。

なお、右の過程において、新工場に設置予定のガラス栓コルク組立機は、当初の三台から六台に増えたが、右増加後の新工場における設備のレイアウト図は、別紙図面六のとおり(以下「最終レイアウト」という。)であり、当初のレイアウトにはあったガラスコルク栓製品置場がなくなり、これを別途確保する必要が生じるものの、それ以外の設備を配置して作業を行うことは十分可能である(ガラス栓コルク組立機を六台に増やした場合、機械類の設置に必要な面積は202.4坪(667.92M2)である。)。

2  前示認定事実によれば、原告と被告はいずれも、長年にわたって「労働協約」と題する文書を有効な労働協約として扱ってきたこと、右文書中の原告は被告から申し出があった場合には組合事務所として会社施設を利用する便宜を与える旨の規定(一〇条)に基づき、原告は被告に対し原告所有の施設を組合事務所として無償で貸与してきたことが認められ、右事実によれば、原告と被告との間で、原告は被告から申し出があれば原告所有の施設を組合事務所として無償で貸与する旨の合意又は労使慣行が存在していることは認められるが、それ以上に組合事務所の場所及び面積について、特段の合意又は労使慣行が成立していたとは認められない。

被告は、約一五年間、本件建物を組合事務所として利用してきたという事実から、原告被告間では、被告の組合事務所の面積について本件建物の面積程度のものとする旨の合意がある旨主張するが、組合事務所としてどの程度の面積が必要かつ相当かは、基本的には組合員の数によって左右され、会社内に複数の組合がある場合には、他の組合の組合員数及び組合事務所の面積との比較によって決められるべきものであり、いったん供与を受けた組合事務所の面積が組合員数の増減にかかわらず不変でなければならないと解すべき理由はなく、これは本件建物がもっぱら組合事務所としての利用を目的として建設されたものであるからといって変わるものではない。

そして、前示のとおり、被告の組合員数は、本件建物の貸借開始時の約五五〇名から、本件解除時には一三七名、平成三年七月には一二七名に減少しており、本件建物の面積は、前示認定の他組合の組合員数及び組合事務所の面積に照らし極めて広いこと、本件代替事務所は、原告にとって不本意なものであるとしても、他組合の組合員数及び組合事務所の面積に比して格別狭いとか、環境が劣悪であるとはいえないこと、また、備品等の保管、集会及び駐車場についても、原告が便宜を図る旨約束していることが認められる。

一方、前示認定事実によれば、本件解除に先立つ平成元年一月、サントリー社から圧搾コルク栓について大幅な増産要請があったこと、既存の設備では右要請に対応できず、新工場建設の必要性が生じたこと、新工場建設用地として必要な諸条件を総合考慮した結果、原告は、本件予定地が最適であると判断したこと、客観的にも右判断は不合理ではないことが認められ、以上によれば、原告において本件予定地を自ら使用する必要性があり、本件貸借契約を解除して本件土地建物の明渡しを求める合理的理由があると認められる。

被告は、原告主張の設備を設置して円滑に作業を行うためには、当初の設置予定数でも建屋面積九四〇M2では不十分であると主張し、その根拠として、現在、暫定措置として利用している各建物の面積とそこに設置されている機械の数を基礎とした数値を挙げるが、もともと本件の製品の生産場所として建てられたのではない建物において分散して作業を行っている現状では、作業に利用できない空間や機械の配置及び作業動線の面で不合理的かつ無駄な部分が生じることは避けられず、最初からワンフロアの工場として建築することを目的としてレイアウトを構想する場合と同視することはできないから、右主張は採用しない。

また、被告は、原告の対応及び従前からの労使関係を挙げて、原告が真に本件予定地における新工場建設を企図しているとは考えがたく、本件土地建物明渡請求の真の目的は、被告の組合事務所の縮小移転にある旨主張する。乙五四ないし九八によれば、昭和六三年春闘時のストライキ以降、原告が、被告の組合員に対し、被告からの脱退を勧め、意に沿わない配転を命じたり、懲戒処分、手当の不払等の他の組合に比べ不利益な取り扱いをし、労働委員会の救済命令や判決において、数度にわたり、これらの行為が不当労働行為であるとの判断が示されたことは、被告の主張のとおりであり、右事実によれば、平成元年当時、原告が被告の弱体化を意図していたことが認められ、また、前示認定事実によれば、本件解除以後の交渉過程における原告の対応は柔軟性に欠け、新商品の受注拡大を切望する経営者として賢明な態度であったとは必ずしもいい難く、このような原告の態度が被告に右主張のような疑念を抱かせたという面は多分に認められるものの、サントリー社からの増産要請は原告の右意図と無関係になされたものであり、原告において右要請に対応すべく新工場を建設する必要が生じたこと及び右建設場所として本件予定地が最適であることは、前示のとおりであって、原告が真に本件予定地に建設する意思がないにもかかわらず、もっぱら被告組合事務所の縮小移転を謀る目的で、本件解除を行ったものとは認められないから、被告の前記主張は採用できない。

以上によれば、原告が本件予定地を利用する必要性は切実なものがあるのに対し、本件土地建物を明け渡すことにより被告の受ける不利益については、本件代替事務所の無償貸与によって補われるものであるから、原告の本件解除には合理的理由があり、不当労働行為又は権利の濫用とは認められない。

三  請求原因5について

前示認定事実、甲三〇一ないし三七六、証人片山公三及び弁論の全趣旨によれば、①原告が、新工場建設までの暫定措置として、平成元年一〇月以降、修養館に機械を設置すべく、配線及び受電設備設置のために各種の改造工事を行い、屋外電気工事費用一四七万二二〇〇円、屋内配線工事費用一六万二〇〇〇円、修養館等改造費用二二〇万五五九三円の合計三八三万九七九三円を支払ったこと、②修養館での受電設備レンタル料として平成元年一一月から平成六年九月までに合計三五四万円(月額六万円)を支払ったこと、③平成三年四月から平成五年九月まで旧寿倉庫を借りて製品置場とし、その間、賃借料として合計一四七〇万円(月額四九万円)を支払ったこと、④平成五年一〇月以降は、新寿倉庫を借り換えて生産を行っており、平成六年九月までに賃借料として合計一二八〇万四九六〇円(月額一〇六万七〇八〇円)を支払ったこと、⑤新倉庫の借り換えに伴う設備の移設のため、動力電源配線工事費用二四一万三三〇〇円、高圧受電工事費用九四万五〇〇〇円、屋内配線工事費用一五五万八〇〇四円、配管工事費用一六万〇一九四円、移設に伴う諸費用九六万八八八五円の合計六〇四万五三八三円を支払ったこと及び、受電設備リース料として平成五年一〇月から平成六年九月までに合計五六万三〇四〇円(月額四万六九二〇円)を支払ったことが認められる。

しかし、前示のとおり、新工場の建築確認通知は平成二年七月二七日に発せられたものであり、これ以前には、被告が本件土地建物の明渡しに応じたとしても、新工場において操業することはできず、暫定的な措置を講じる必要があったものと認められる(原告は、建築確認通知が遅れたのが被告の妨害によるものであるように主張しているが、これを裏付ける証拠はない。)から、右通知以前の暫定的措置についての支出である①及び②のうちの平成二年七月までの九か月分(五四万円)と、被告が明渡しに応じなかったこととの間には因果関係は認められない。

また、平成五年一〇月以降は、ガラス栓コルク組立機六台を稼働させているが、甲三七七、小川証言及び弁論の全趣旨によれば、右六台を新工場に設置するためには、製品置場を工場外に別途確保しなければならず、右当時、新工場が完成していたとしても、社外の倉庫を借りる必要があり、その賃借料は被告の明渡しいかんにかかわらず負担せざるをえなかったことが認められる。そして、原告が従前製品置場として利用していた旧寿倉庫の月額賃料に照らせば、右賃借料相当額としては、月額五〇万円が相当である。

そうすると、被告が明渡しに応じていれば支出の必要がなかったものと認められる②(ただし平成二年八月以降の分。)ないし⑤の支出から、平成五年一〇月から平成六年九月までの間の前示の倉庫賃借料相当額の合計六〇〇万円を控除した金額が、原告が平成六年九月までに支出した金額のうちで、被告が明渡しに応じなかったことと相当因果関係を有する損害というべきであり、その額は、三一一一万三三八三円である。

また、平成六年一〇月一日以降も、本件土地建物の明渡が完了し、新工場の建設が可能となるまでは、新寿倉庫を利用しての現在の製造工程を続けざるを得ず、新寿倉庫の賃借料月額一〇六万七〇八〇円を支払う必要があることは認められるが、これについても、前同様、新工場完成後も支出を余儀なくされる賃料月額五〇万円を控除した金額が、前記相当因果関係のある損害とみるべきであり、その額は、月額五六万七〇八〇円となる。

四  結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、本件建物明渡、本件車庫の収去及び本件土地の明渡、金三一一一万三三八三円及び平成六年一〇月一日から右明渡済まで月額五六万七〇八〇円の支払を求める限度で理由がある。

よって、右限度で原告の本訴請求を認容し、その余の部分についてはこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条ただし書を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

別紙 物件目録<省略>

別紙 図面一〜六<省略>

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